企業の食品ロスへの取組紹介(取組状況と削減効果を見える化)
- 更新日
「おいしい商品が提供されていれば、食べ残しは発生しない」 創業当時から食べ残し残渣を減少させる取組を実施
株式会社吉野家ホールディングスは、「世界中の人々にとってかけがえのない存在になる」ことをビジョンに掲げ、国内外で飲食事業を展開する企業である。牛丼チェーン「吉野家」、うどんチェーン「はなまる」をはじめ、多様なブランドを運営し、「おいしさ」と「価値ある食体験」を提供している。
グループ経営理念として、「For the People すべては人々のために」を掲げ、創業以来培ってきた味と品質へのこだわりを大切にしながら、時代の変化に対応した事業展開を行っている。
フードサービス業としての社会的責任を果たし、食の安全・安心を追求しながら、人々の健康と豊かな生活に貢献する中で、食品廃棄、食品ロスの取組について話をきいた。
食べ残し残渣を計量し、美味しさのバロメーターに
牛丼チェーン吉野家は、かつて経営の大きな転換点を迎えたことがある。海外からの輸入規制により牛肉の生肉調達が困難となり、一時的に加工肉を使用して販売を継続したが、味の変化によってお客様の支持が揺らぐ局面を迎えた。
その後、更生会社として再出発を果たし、「おいしさこそが吉野家の原点である」という強い信念が社内に根付いた。この経験を活かし、店舗では食べ残しの量を計測し、お客様の満足度を測るバロメーターとして活用する取り組みを強化した。
「当時、お客様の多くは男性労働者や食べ盛りの男子学生が主流で、空腹を満たすために来店されていました。食べ残しがあるということは、おいしさの改善余地があると考えたのです。」
この考えのもと、食べ残しの計量を通じて味の品質向上に努める文化が吉野家に根付き、現在も全店で実施されている。
「吉野家は特徴的に、牛丼に非常に強いこだわりをもっています」
ファストフード店としては珍しく、吉野家では工場で加工した食材をそのまま提供するのではなく、生肉や生の玉ねぎを店舗へ届け、一から調理を行っている。マニュアルは定められているものの、調理の工程には店員の技術が活かされる部分も多い。
「調理技術の向上が味の向上につながり、結果として食品ロスの削減にも貢献する」という考えのもと、吉野家では定期的に技術大会やコンクールを開催し、全従業員が一丸となって技術向上に取り組んでいる。実技大会の優勝者には個人賞として300万円の賞金が贈られる。この賞金額からも、吉野家が味へのこだわりをどれほど大切にしているかがうかがえる。
店舗では食べ残しを減らす取組を。工場のリサイクル率は100%を達成
店舗では食べ残しを減らすために、美味しさを追求することに加え、無料の弁当容器を提供し、持ち帰りの選択肢を設けている。一方で、調理過程において油の廃棄は避けられず、また、食品ロスは店舗よりも工場のほうが発生しやすい課題もある。
そこで、店舗と工場それぞれの現場で食品ロス削減に向けた取組を実施している。
【吉野家の店舗の取組】
- ① 創業以来、食べ残し残渣を減少させる取組を実施
「『おいしい商品が提供されていれば、食べ残しは発生しない』という企業ポリシーがあり、毎日食べ残し残渣量を店舗より本部に報告し、”おいしい商品の作成・提供”のバロメーターにしています。」
例えば、カレーの提供を開始した際、福神漬をテーブル上に置いて自由に取れる形で提供していた。しかし、実際にはほとんど利用されていないことが判明したため、小皿で提供する形に変更。それでも残されることが多かったため、最終的には提供を中止した。このように、商品作成時に必要と考えていたものも、残渣のデータをもとに提供方法を見直し、場合によっては提供自体を取りやめるなど、無駄を減らす工夫を続けている。
また、近年では女性客の増加に伴い、食べきれる適量を選べるようメニューのサイズバリエーションを拡充。ご飯の量やボリュームを調整できるようにすることで、食べ残しの削減につなげている。
食べ残し以外でどうしても発生してしまうロスのひとつが脂だ。吉野家では、牛丼を調理する過程で出た脂を回収し、昭和の時代からリサイクルを続けている。
回収した脂はリサイクル専門業者へ引き渡され、石鹸や豚の飼料として再利用されている。これにより、リサイクル法が施行される以前から、環境負荷を低減する取組を実践してきた。こうした取組により、牛丼業態としても非常に高いリサイクル率を維持している。
- ② 販売実績に応じた食材の発注
生鮮食品の日配により、食材の鮮度を保ちつつ、食品ロスが発生しないようにしている。
発注ミスにも気をつけていて、本部のスーパーバイザーを含めてチェックしている。
「最大に良い品質、鮮度を守る必要があるため、発注量のミスについては、人の作業だけでなく、長い年月かけてシステム改修をしながら防止につとめています。」
【工場での取組】
- ① 葉物野菜を学校や動物園に提供
白菜やキャベツなどの葉物野菜は、外葉の部分が食用に適さないため、これを取り除き活用している。近隣の小学校で飼育している動物や埼玉にある工場では近隣の東武動物公園に飼料として提供することで、野菜残渣を有効活用している。
- ② 生ごみ処理機の活用
10年以上前から生ごみ処理機を導入し、1日2トンの野菜残渣を処理している。また、肉の端材についても、脂分を含む部分はミンチにしてハンバーグの材料とし、牛丼用にはサイズが合わない牛肉を別の食材へ転用するなど、徹底した資源活用を行っている。
「食品製造業のリサイクル率基準は95%とされていますが、当社では直近3年間で100%を達成。捨てるものが一切ないリサイクル活動を実施しています。」
- ③ 玉ねぎ端材のアップサイクル
玉ねぎの外皮は、生ごみ処理機でも分解しきれず、殺菌効果が高いため動物の飼料にも適さない。そのため、従来は肥料化または産業廃棄物として処理するしかなかった。しかし、近隣のパン工場と協力し、玉ねぎ端材をパウダー状に加工し、パンの生地に練り込むことで、新たなアップサイクル製品として販売することに成功した。
「パウダー加工の機械はレンタルリースを活用しているため、設備投資の負担がなく、工場で製造したパウダーはすべて買い取ってもらえるため、ロスを削減するだけでなく、売上にもつながっています。」
この取組は環境省の事務次官賞を受賞し、OPECやG7において、日本の食品ロス削減の成功事例として紹介されている。
- ④ はなまる高松工場のケース
高松市の下水道局からうどんの製麺段階の端材を下水処理施設の発電に活用したいと、地域の企業と共に声がかかった。下水用のバイオ発電の材料として、小麦うどんの端材を提供している。
はなまるうどんは、全国複数工場あり、どの工場の端材も基本的には全て食品リサイクルにまわしているが、高松市については、バイオ発電に活用している。
少量多品種の食品残渣のリサイクル課題
工場では大量の商品を一括で処理できるため、リサイクルが比較的進めやすく、廃棄物の排出場所も一箇所に集約される。一方、店舗では少量多品種の食品残渣が発生するため、分別や輸送の問題があり、リサイクルの推進が難しい。
飲食店は人口密集地に多く存在するが、リサイクル施設は都市部には少なく、輸送コストが大きな課題となる。また、リサイクル品を運搬するには廃棄物収集運搬の許可が必要であり、ドライバー不足の影響も大きい。
「現在、廃棄物の収集運搬とリサイクル品の収集運搬を同じ企業が担っていることが多いため、どうしても優先されるのは廃棄物の収集です。その結果、リサイクルのための輸送手段が不足し、リサイクルを進めたくてもできない状況にあります。」
さらに、登録制再生利用事業者の制度もあるが、その要件は廃棄物収集運搬の許可とほぼ同じであり、実務上の負担が大きい。この制度がより柔軟で実用的になれば、リサイクルの推進が進む可能性がある。
リサイクル率を上げるためには、現場だけでなくサポート環境の整備を
吉野家・はなまるの工場では、食品リサイクル率100%を達成しており、現在は食品以外の廃棄物削減にも取り組んでいる。店舗では、油脂回収の強化や食べ残し削減、販売予測の精度向上による仕入れ量の適正化を進め、食材のロスを抑える努力を続けている。
工場でも、食品廃棄物削減やリサイクル・アップサイクルの研究を継続しているが、外食産業全体で見ると、リサイクル率の目標である50%の達成が依然として課題となっている。
「リサイクルにはコストがかかるだけでなく、ドライバー不足も大きな障害になっています。リサイクル率を向上させるには、現場の努力だけでなく、輸送や処理をサポートする環境整備が不可欠です。」
また、メニュー開発や調理手順の最適化も、ロス削減には重要な要素となる。工場では100%のリサイクルを達成しているが、店舗では牛丼が50%を達成している一方で、うどん業態ではまだ基準に達していない。
「今後は、麺の賞味期限延長の研究や、店舗内でのロス削減策を強化し、リサイクル率の向上に取り組んでいきます。」
株式会社吉野家ホールディングスは、牛丼をはじめとする多彩な食体験を提供し、世界中の人々に「おいしさ」と「感動」を届けることを使命としている。創業以来、お客様に愛される商品を追求し続け、現在では国内外に多くの店舗を展開。食を通じて豊かな社会の実現を目指し、常に新たな価値の創造に挑戦している。
サステナビリティの観点から、食品ロス削減にも積極的に取り組んでいる。店舗では食材の適正管理や食べ残し削減の工夫を行い、工場ではリサイクル率100%を達成するなど、環境負荷の低減に努めている。
おいしさと環境配慮を両立させることで、持続可能な未来への貢献を果たしている。
企業名:株式会社吉野家ホールディングス
所在地:東京都中央区日本橋箱崎町36-2
公式ホームページ:https://www.yoshinoya-holdings.com/