第2回Tokyo-NbSアクションアワード 大規模法人部門:最優秀賞 清水建設株式会社の取組
取組の紹介動画はこちら
https://youtu.be/6zkMr56wc7o?si=BBGShdlrAJV6clBv
清水建設株式会社
技術研究所カーボンニュートラル技術センター 主任研究員 渡部陽介さん
都心臨海部の埋立地における生態系回復の実証
都市型ビオトープ「再生の杜」
単なる緑化ではなく、地域の生態系との融合および生物多様性の向上を目指し、清水建設は、2006年に都市における生態系回復の実証フィールドとして江東区の技術研究所内の建物跡地に約2,000㎡のビオトープをつくり出しました。
「都市における人と生物の関係の再生」を基本コンセプトに、「再生の杜」と名付けられたこの場所で、建設会社の技術を活かした都市と自然との共生に取り組んで約20年。継続的なモニタリングや順応的な管理を通じて、都市における生態系回復の可能性を追求し続けています。
建設業は自然へのインパクトが大きい事業活動を行っているからこそ、生物多様性の損失を止め、反転させる「ネイチャーポジティブ」への貢献が社会的責任であると渡部さんは語ります。
渡部さん:本館の建て替えに際し、もともと建物がたっていた場所にビオトープがつくられました。建設会社として開発事業における生態系保全で培ってきた様々な技術や知見が活かされています。特徴的な技術のひとつが、陸域から水域がなだらかにつながる「エコトーン(遷移帯)」です。水域から陸域にかけて、水域・湿地・水辺・落葉樹林・草地・常緑樹林とゾーニングをして、多様な動植物が生息しやすい環境をつくっています。また、ビオトープの池を掘った際に出た土を基盤として有効利用するとともに、表土には首都圏の建設現場で発生した田んぼや畑の土を活用しました。土中に眠っている植物の種から絶滅危惧種を含め、在来の植物を回復する「埋土種子緑化」という技術も適用されています。その他、導入植物は、在来種を中心に植物種を選び、関東圏から調達するなどの配慮も行っています。
「再生の杜」を実験場としても活用し
気候変動にも適応したまちづくりに貢献
自然を再生して守り育てるだけでなく、いかに事業や社会課題解決と結びつけるかはネイチャーポジティブやNbSの取組において重要なこと。「再生の杜」を活用し、気候変動に適応したまちづくりにむけた実験にも挑戦しています。
渡部さん:都市部では地面の多くが建物や道路に覆われているため、気候変動に伴いゲリラ豪雨等が増えると、雨水が一気に下水道へ流れ込み、内水氾濫のリスクが高くなります。そこで、緑地を活用した雨水マネジメントに取り組んでいます。具体的には、屋根の雨水を「再生の杜」の水域に引き込み、池の水として有効利用しつつ、一時的に貯留することで下水負荷の低減を試みています。
ここで得られたデータや設計のノウハウは、私たちが携わる開発プロジェクトのグリーンインフラの設計に展開していきたいと考えています。
絶滅危惧種を含む希少植物や生物を確認
継続的なモニタリングが証明する自然の力
絶滅危惧種を含む多様な生きものの定着が数値でも確認されている、約20年にわたるモニタリング調査。蓄積された膨大なデータは、抽象的になりがちな自然の価値を客観的事実として提示することに寄与しています。
渡部さん:モニタリングによって、約30種の絶滅危惧種を含め、300種以上の生物が継続的に確認されています。水域では、ジュンサイやアサザなどの希少な水草や藻類が繁殖し、サギやカルガモなどの水鳥や多様なトンボ類が頻繁に飛来しています。カルガモはここが繁殖場所になっていますし、タヌキが確認されたこともあります。
また、生きものの様子は、担当以外の社員も関心を寄せています。社内のチャットツールなどを通じて「アオサギが来た」「カルガモのヒナが生まれた」といった目撃情報が寄せられています。「再生の杜」は、社員研修等にも活用されており、ネイチャーポジティブへの理解を深める場にもなっています。
数値によって示された、都会の真ん中でも生態系を回復できるという揺るぎない証明。ここで得られた知見は、様々な開発案件にも活用されています。
「開かれた研究所」としての地域共創
次世代へつなぐ環境教育とコミュニティの醸成
セキュリティ性の高い施設ながら、イベントや自然体験プログラムを通じて、地域の方々に身近な自然の恵みを五感で感じてもらう場を提供。研究所自体がショーケースという意味合いも持っていると語る渡部さん。この場所は、研究開発の成果の発信地という枠を超えて、環境教育や地域コミュニティとの連携の拠点にもなってきています。
渡部さん:2008年より「再生の杜」で、青少年向けの公開講座「シミズ・オープン・アカデミー」を実施しています。参加した子どもたちからは、「建設会社が建物を作るだけでなく、森や緑地を作って育てているとは知らなかった」、「都会に色々な生きものが住んでいると知って驚いた」といった声が多く聞かれます。間近で生きものが動く姿に釘付けになったり、ビオトープの水中を覗いて「水族館みたい!」と目を輝かせたり。こういった様子に触れると、「子どもたちに誇れるしごとを。」という私たちのコーポレートメッセージが、この場所で具現化されていると感じます。
2023年からは地域の「七夕めぐり」というイベントに合わせて、「再生の杜」の限定公開ツアーを開催。親子連れをはじめ近隣の方々が1日に100名前後、訪れる好評の企画となっています。今後は、行政やNPO・市民団体など地域との連携をさらに深め、企業緑地の暫定利用の機会を拡大していきたいと渡部さんは語ります。
「再生の杜」での活動を活かし
ネイチャーポジティブに貢献するまちづくりを目指す
生物多様性を前提とした都市における自然再生。今後は先端技術(環境DNA解析やシミュレーションなど)もさらに活用して、自然と共生する未来の都市モデルを東京から発信していきたいという想いを語る渡部さんの目は未来を見据えています。
渡部さん:この「再生の杜」で培った実践スキームは、潮見や豊洲、木場といった他のエリアにも自社施設を起点として広がってきています。今後は、コアビジネスである建設事業へも展開し、企業緑地を起点としたネイチャーポジティブを目指すまちづくりにも貢献していきたいと考えています。
清水建設の「再生の杜」は、未来に向かってこれからも進化を続けていきます。