第1回Tokyo-NbSアクションアワード優秀賞 サントリーホールディングスの取組

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サントリーホールディングス株式会社 サステナビリティ経営推進本部 スペシャリスト 市田智之さん

 

「天然水の森」活動を都内4か所で展開
未来視点で豊かな水を育む

「良質な地下水はサントリーの生命線」という考えのもと、サントリーでは豊かな地下水を末永く守るために、水源となる森林の保全・再生に取り組んでいます。
2003年に活動を開始し、2024年末現在、全国26か所に「天然水の森」を展開。東京都では、「奥多摩(檜原村)」「とうきょう秋川(あきる野市)」「とうきょう檜原(檜原村)」「東京農業大学 奥多摩演習林(奥多摩町)」の4ヵ所で活動を行っています。

 

市田さん:私どもはいい水がないと何も製品がつくれません。そこで、20年後、30年後も豊かな水が得られるように、地下水の源となる森を守ろう、育てようという考えからこの活動が始まりました。東京都に4ヵ所ある「天然水の森」は、弊社の〈天然水のビール工場〉
東京・武蔵野と多摩川工場の 水源地であり、これらの森を整備することは弊社にとって基幹事業の一つと捉えています。

 

 
「フカフカな土」が豊かな地下水の源
森の状態や特性に合わせて最適な整備を模索

豊かな水を育むためには、森の土壌が非常に重要。「天然水の森」ではいずれの場所でも、水源涵養力に富んだ「フカフカな土」を大切にしています。

 

市田さん:森が荒れていると雨が土に浸み込まず、表面を流れてしまって豊かな地下水が育まれません。ですから、適度に間伐して森に光を入れ、下草が育つ環境にしてあげるのです。そうすると土がスポンジのようにふかふかになって、しっかり水を貯えられるようになる。浸み込んだ水は20年ほどの時間をかけて岩盤層に届き、それを汲み上げることで飲み水や私たちの製品となります。フカフカな土は、20年後の水につながっているわけです」

 

フカフカな土は、いわば天然のダム。「天然水の森」では、そういった森林が本来持っている機能を保全・再生することを基本に様々な活動が進められてきました。
しかし、一口に森林と言っても、場所によって環境や特性が異なります。「天然水の森」活動では、PDCAサイクルに調査(Research)を加えた「R-PDCAサイクル」というアプローチ で、それぞれの森に適した整備を進めています。
市田さん:航空測量によってその土地に生えている樹種や密度を把握して、その後、実際に植生コンサルタントさんと森に入って、エリアごとの状況を確認します。そして、ゾーンごとに目指す「ビジョン」を描き、効果検証しながら進めるというのが私ども活動の基本となります。調査から計画、実施に至るまで多くの専門家の先生方と連携して、様々な知見や経験を採り入れさせていただきながら「天然水の森」の活動をしています。

 

 

都内の森でも、2010年から活動をスタート
森が本来持っている力の保全・再生を目指す

フカフカの土を育む、R-PDCAサイクルに基づく森林整備。東京都の「天然水の森」でも、その考え方に沿って、それぞれの森に適した施策が進められています。
自然林をそのまま残す、手入れの行き届いていない経済林を適切な状態に整備する、人工林を自然に近い状態に戻すなど、目指すビジョンは森によって様々。具体的な活動としては、小面積での皆伐や間伐、伐採後の植林、若木や下草を守るための獣害対策など多岐にわたる活動を展開しています。
その結果、「奥多摩」では10年の時を経て更地が森に生まれ変わったほか、「とうきょう檜原」では人工林を皆伐して10種類ほど樹種を植え、多様性に富んだ森へと変える計画が進行中。東京農大の奥多摩演習林では、伐採した木を「育林材」と名付けて有効活用を進める活動をはじめ、菌根菌と広葉樹の共生に関する共同研究なども開始しています。さらに「とうきょう秋川」では、フクロウの巣箱プロジェクトを実施した結果、周辺の森にいたフクロウたちが子育てのために飛来してきているそうです。
 

 

 

「天然水の森」活動では、森林の整備に加え、グループ社員を現地に招いての森林整備体験や小学生を対象にした次世代環境教育「水育(自然体験プログラムや出張授業など)」も実施。水と森の関係性をジブンゴトとして捉え、「豊かな水を未来に引き継ぐために何ができるか?」をともに考えるという取り組みも積極的に進めています。

 

小さな試行錯誤を重ねながら
長い目で森と向き合う

「天然水の森」活動は、長年にわたる森づくりの経験を活かしながら、展開範囲を広げ、取り組みの質を高めてきました。しかし、その過程には多くの試行錯誤があったと市田さんは振り返ります。
市田さん:自然が相手ですので「こういう取り組みをしたら必ずこうなる」というわけにはいきません。まず小面積でトライアルをして、失敗したら専門家の先生方と原因を究明し、改善策を重ねてきたことが様々な課題を乗り越えられたポイントかと思います。また、たとえ小面積で成功しても、一気に実施範囲を広げず、徐々に拡大していくことも意識しています。それから、ある時点ではうまくいっても、10年後は全く結果が異なるというケースもあるので、短いスパンで判断せず、長い目で森の様子をモニタリングしていくことも大切にしています。

 

 


NbS活動に取り組む上では「持続性」が重要なポイントの一つ。20年以上にわたって「天然水の森」活動を続けてこられた要因について、市田さんは「基幹事業として取り組んできたことが一番大きい」と語ります。
市田さん:ボランティア活動ももちろん大事ですが、事業に直接結びついていないと、やっぱり継続が難しくなってくると思います。弊社の場合、水は事業に直結するもの。水源を守ることを基幹事業の一つと捉えて活動してきたからこそ、20年以上にわたって継続してこられました。持続的な活動を目指す際は、いかに自分たちの根幹と紐づけるか、というところが非常に重要なのではないかと思います。
自然相手の活動は、すぐに結果が出るものではありません。「天然水の森」活動では、今後も長い時間をかけて森と向き合うとともに、その想いを次世代の人たちに継承していく活動にも力を入れていきたいと考えています。

 

 

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記事ID:021-001-20250131-012394