第1回Tokyo-NbSアクションアワード最優秀賞 野村不動産ホールディングスの取組

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野村不動産ホールディングス株式会社 サステナビリティ推進部 企画推進課 主任 榊間綾乃さん

 

奥多摩の森林と都市の共生に向けて、
「循環する森づくり」を展開

野村不動産グループでは、2022年に東京・奥多摩町に約130ヘクタールの森林を取得。「つなぐ森」と名付けられたこの森を舞台に、自社グループの事業を通じた自然と都市の共生に取り組んでいます。
このプロジェクトが目指すのは、森林が持っている多種多様な機能を育むとともに、その恵みを事業活動や都市の暮らしへと循環させる森づくり。脱炭素や生物多様性の保全をはじめ、人々のウェルビーイングや新たな経済価値の創出など様々な社会課題の解決も視野に活動を展開しています。

 

野村不動産グループでは、プロジェクトの実施に当たり、有識者会議を設置し、生態系の調査および管理計画の策定を実施。「ランドスケープアプローチ※」という手法に基づき、4つのゴール(目指す姿:健全な生態系ピラミッドの維持、重要種の保全、林業と生物多様性の共生、生態系サービスの活用)を設定し、循環する森づくりを進めています。
※一定の地域や空間において、主に土地・空間計画をベースに、多様な人間活動と自然環境を総合的に取り扱い、課題解決を導き出す手法

 

 

地元企業等との連携により木材サプライチェーンを構築、
生物多様性の保全と林業の両立に取り組む

本格的な活動開始から2年。循環する森づくりは、まず「林業と生物多様性の共生」という面で着実な成果を生み出しています。
グループ会社として「森をつなぐ合同会社」を設立。地元の森林組合や製材・加工事業者と連携して木材を生産し、自社グループの建材等に用いるという独自のサプライチェーンを構築しました。

 

榊間さん:私どもは不動産デベロッパーですので、もともとは木材を消費する側にいます。その消費する立場の企業が川上から川下まで一貫したサプライチェーンを構築することで、木材の高付加価値化や生産の効率化を図り、それによって林業と生物多様性の共生を実現させよう、というのがこの取り組みの意図するところです。まだ小規模ですが、実際に「つなぐ森」の木材をグループ社員用ラウンジや内装材に使ったり、2025年に竣工する新本社ビルのエントランスに使用する計画も進んでいます。
 

 

「つなぐ森」では、「生物多様性の保全のためには一人ひとりの行動変容が大切」との考えから、グループ社員を対象にしたサステナブルツアーも実施。これまでに約200人が森での自然体験に参加し、ほぼ全員が「これから自分の行動を変えていきたい」と答えたそうです。

 

企業活動や人々の暮らしとつながる森づくりを通じて、
自然と人間との新しい関係性を目指す

「つなぐ森」での活動全般について、榊間さんは「人間活動と結びつける」ことを重視していると語ります。

 

榊間さん:自然環境を守ることだけに注力してしまうと、人間の活動に制約が設けられてしまい、取り組む人が少なくなってしまったり、持続が難しくなってしまう可能性もあります。特に私どもは民間企業ですから、環境保全活動を持続するには「いかに事業と結びつけるか?」が非常に重要で、そういったところから行きついたのが「ランドスケープアプローチ」なんです。具体的な実践方法についてはまだ模索中の部分も少なくありませんが、自然と人間の関係を昔のように戻すのではなく、新しい関係性を見出していけたらと考えています。

 

 

「人間活動と結びつける」というテーマは、地元・奥多摩の企業や人とのつながりという面でも好影響を生み出し始めています。

 

榊間さん:木材関連では森林組合さんや製材・加工事業者のみなさん、サステナブルツアーでも地元のネイチャーガイドさんやバス会社さんにご協力をお願いするなど、この活動では本当にたくさんの地元事業者さんと連携させていただいていますので、そういった連携を通じて地域の活性化に貢献できているのではないかと思っています。実際に、製材所で新たな雇用が生まれたという話も聞いているので、今後も引き続き地域振興に貢献していきたいですね。
 

課題を細分化し、一歩ずつ解決法を模索。
現場の声に耳を傾けながら、不可能を可能に

森を起点に様々な人が有機的につながる、このプロジェクト。着実に前進を続ける背景には、多くの苦労もあったと榊間さんは語ります。

 

榊間さん:新しい考え方で森づくりをするというプロジェクトなので、連携するみなさんとの合意形成や調整には非常に難航する部分もありました。生物多様性や自然環境の保全などの総論についてはすぐに賛成していただけたのですが、実践方法などの各論になると「それは現実的ではない」などといわれることも多くて……。例えば「つなぐ森」では、生物多様性の観点から、広範囲の木をまとめて伐採するのではなく、一部の木を残す形で伐採する「モザイク状皆伐」を推進しているのですが、この方法は一般的でなかったためなかなか理解を得られませんでした。それでも「全部は無理でも、この部分だけやってみませんか?」とか「この順番ならできますか?」とか丁寧に課題を分解して、できるところから少しずつ実践するようにしたことで計画を前に進めることができました。
 

 

榊間さんたちは、課題を分解しながら実現可能な道を探るというアプローチで、そのほかにも大小さまざまな壁を一歩ずつ克服。森の中だけでなく、木材利用に関する社内調整の場面などでも同様に交渉を重ねることで、「低質材は建材としては使えない。でも家具としてなら利用できるのでは?」といったアイデアを引き出し、製品開発や自社施設への導入を実現させました。

 

効果検証と連携の強化・拡大を進めながら、
東京圏全域での展開を構想

「つなぐ森」が生まれてからの2年間を振り返り、「進むべき道筋が見えてきたことが最大の成果」と榊間さんは語ります。今後は、4つのゴールに対して設定されたKPIに基づいて効果検証と改善を重ねながら「目指す姿」の実現を目指していく予定です。

 

榊間さん:この取り組みは、非常に多くの方たちとの連携の中で進められているものですので、今後はさらなる連携強化や、新たなパートナーさんとの共創も進めていきたいと考えています。また、環境面だけでなくESDなどの教育や人づくりの面でも展開を拡大できたらと思っています。
それと同時に、このプロジェクトの実施内容などを広く発信し、それを他の企業や地域での展開につなげていただき、東京圏全体にインパクトを生み出していきたいですね。
 

 

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記事ID:021-001-20250131-012392