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ロードプライシング検討委員会報告書

ページ番号:999-249-440

更新日:2018年2月9日

-太田勝敏検討委員会会長挨拶-

<目次>

自動車による慢性的な渋滞は、世界都市東京の都市機能を大きく損なうとともに、大気環境に深刻な影響をもたらしております。
都では独自のディーゼル車規制を平成15年度から行うことになりましたが、東京が将来に向かって持続的に発展していくためには、自動車の単体規制に加えて、自動車交通量の抑制を図り、自動車に過度に依存した私たちの生活と社会を見直す必要があります。

ロードプライシングは、交通渋滞や大気汚染の激しい地区での自動車利用に対して、それらの社会的費用を反映した課金をすることで、現在の車の使い方を見直し、社会全体からみてより合理的な自動車の利用を促すというものです。

既にシンガポールではERP(エレクトロニック・ロードプライシング)が導入され、自動車交通の抑制に効果をあげており、ロンドンをはじめ各国でその導入が検討されています。

ロードプライシングは、車の使用に対して、市場メカニズムを活用するというもので、代替交通手段の整備や他のTDM(交通需要マネジメント)施策などとあわせて進めることで大きな効果が見込める施策であり、車利用にかかわるライフスタイルや業務の進め方の再考を促す点で、効果が大きい施策です。

検討委員会では、昨年8月以後、6回の委員会開催を通して東京で実施可能なロードプライシングについて検討してきました。検討に当たっては、ドライバーや事業者を対象に行った、課金した場合の交通行動についてのアンケート調査結果を踏まえ、改善効果だけでなく、実施に伴う影響についても将来予測を行いました。

今般、この間の検討成果をとりまとめましたが、一定の広がりのある地域を対象とするロードプライシングは日本においては未だ前例のない施策であり、都民をはじめ関係者の理解と合意が前提となるため、実施に向けて解決すべき課題は多いと考えられます。

しかしながら、都が環境の世紀といわれる21世紀の初頭にロードプライシングという先駆的な取組で内外の諸都市に都市機能と環境の調和した大都市の姿を示すことは大変意義があります。

都市機能の回復と都民の健康のために、この報告書を1つのステップとして、さらにロードプライシングの実現に向けた取組が進むことを期待いたします。

平成13(2001)年6月 東京都ロードプライシング検討委員会

会長 太田勝敏

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今日、東京における自動車交通は渋滞が慢性化し、東京の都市活動に4兆9千億円とも試算される大きな経済損失を与えています。また、自動車排出ガスは都民の健康だけでなく地球環境にも影響を及ぼしています。
ロードプライシングは、こうした自動車交通がもたらす問題の改善に資することができる施策で、特定の道路や地域、時間帯における自動車利用者に対して課金を行うものです。この課金により自動車利用の合理化や交通行動の転換を促し、自動車交通量の抑制を図ることが期待できます。
海外都市のロードプライシングの事例では、シンガポールやソウルなどにおいて渋滞(混雑)対策を目的として実施されています。
都におけるロードプライシングについては、慢性的な渋滞と経済への影響、また、自動車交通による大気汚染を問題点として策定された「TDM(交通需要マネジメント)東京行動プラン」に基づく施策となっていることから、渋滞緩和と大気環境の改善の2つを目的として実施することが適当と考えられます。

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ロードプライシングにより改善を目指す東京の自動車交通と大気環境の状況については、区部を中心に見るとおおむね次のとおりとなっています。

[交通量の動向と分布]

東京の交通量は毎年増加傾向にあります。車種別の走行量では小型貨物車が減っていますが、それ以上に乗用車が増えています。このため、区部の道路は慢性的に混雑しており、平日(月曜日~金曜日。以下同じ。)の一般道の混雑時平均旅行速度は平成9年度時点で18.5キロメートル/hとなっています。

午前7時から午後7時までの12時間交通量で見ると、交通量が多いのは、都心部、環状七号線などの環状線、国道1・4号などの放射方向の道路であり、特に、都心部につながる幹線道路はいずれも混雑する状況にあります。

時間別では、午前7時頃から午前9時頃にかけて都心部の交通量が増大し、その後、交通量は多い状態が続き、夕方以降に減少するというパターンとなっています。このことは、集中交通量密度からも同じような傾向を見ることができます。

図[2]-1 12時間交通量と混雑時平均旅行速度
12時間交通量と混雑時平均旅行速度
資料:TDM東京行動プラン(平成11年度東京都)

図[2]-2 区部自動車集中交通量密度(全車種・時間帯別)
区部自動車集中交通量密度(全車種・平日7~9時)
区部自動車集中交通量密度(全車種・平日9~11時)

区部自動車集中交通量密度(全車種・平日15~17時) 区部自動車集中交通量密度(全車種・平日17~19時)


  凡例
資料:平成6年度道路交通センサスより作成


[交通の目的地]

自動車の出発地と到着地が区部にある区部内々交通(全車種)の割合は都全体で平日が50.9%、休日(日曜日及び祝日。以下同じ。)は40.3%となっていますが、区部関連交通に占める区部内々交通(全車種)の割合は平日が73%、休日は65%となっています。また、区部内々交通における乗用車類と貨物車類の割合は、平日が66%と34%、休日は89%と11%となっており、休日の貨物車類の交通量は平日に比べると6分の1になっています。

図[2]-3 東京都関連交通量(全車種)
[平日]全体交通量:9,025,052
東京都関連交通量(全車種)平日
区部内々交通量車種別内訳

乗用車類3,029,672(66%)
貨物車類1,567,730(34%)

単位:トリップ/日

[休日]全体交通量:5,870,297

東京都関連交通量(全車種)休日


区部内々交通量車種別内訳

乗用車類2,100,417(89%)
貨物車類264,578(11%)

単位:トリップ/日

建設省道路交通センサス(平成6年)より作成

[利用の目的]

区部における自動車の利用目的を全車種の交通量から見ると、営業用の貨物車やバス・タクシー、一般の営業車などの業務利用が中心となっています。また、バス・タクシーなどの営業用旅客車が1日の交通量に占める割合は他の目的と比べると比較的高くなっています。

図[2]-4 出発時間帯別集中交通量(区部・全車種)
出発時間帯別集中交通量(区部・全車種)
資料:平成6年度道路交通センサスより作成

図[2]-5 到着時間帯別集中交通量(区部・全車種)
到着時間帯別集中交通量(区部・全車種)
資料平成6年度道路交通センサスより作成

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[窒素酸化物(NOx)]

東京においては自動車からのNOx排出量が全体の3分の2を占めており、健康保護の面から環境基準が設定されている二酸化窒素(NO2)生成の大きな原因となっています。山手線内側のほか、首都高速道路や環状七号線、環状八号線などの幹線道路沿道でNOx排出密度が高いため、NO2の環境基準の達成が厳しい状況にあります。NO2を測定している都の測定局の環境基準達成状況で見ると、区部の住宅地等にある27の一般環境大気測定局では、平成10年度の達成局が8局となっていますが、平成11年度は達成局が23局と大幅に増えています。これは気象の影響によるところが大きいといわれています。しかしながら区部の主要道路沿道や交差点にある26の自動車排出ガス測定局では、平成10年度は達成局がなく、平成11年度は達成局が6局に止まっており、NO2の濃度自体は依然として高い状況にあります。


図[2]-6 NOx排出量と年間走行量(平成9年度 都内)
 NOx排出量と年間走行量(平成9年度 都内)

資料:東京都内自動車排出ガス量算出及び将来予測(平成11年度東京都環境保全局)


図[2]-7 メッシュ別自動車NOx排出量(平成9年度・全道路)
 メッシュ別自動車NOx排出量(平成9年度・全道路)資料:東京都内自動車排出ガス量算出及び将来予測(平成11年度東京都環境保全局)


図[2]-8 NO2年平均濃度の推移(区部)
 

NO2年平均濃度の推移(区部)

資料:東京都環境局


[浮遊粒子状物質(SPM)]

都民の健康に悪影響を及ぼすSPMの発生源は、自動車排出ガスによる発生が全体の3分の1、自動車による道路粉塵が全体の約2分の1を占めています。
SPMを測定している都の測定局の環境基準達成状況を見ると、区部の28の一般環境大気測定局では平成10年度は達成局が1局ですが、平成11年度は達成局が22局と大幅に増えています。また、区部の26の自動車排出ガス測定局でも、平成10年度は達成局がありませんでしたが、平成11年度は達成局が14局と増えています。


NO2の場合と同じで、平成11年度は気象の影響から大きく改善されていますが、SPMの濃度自体は未だ満足できる状況にはなっていません。

図[2]-9 都内SPM排出源別割合
都内SPM排出源別割合

資料:東京都環境保全局


図[2]-10 SPM年平均濃度の推移(区部)

SPM年平均濃度の推移(区部)

資料:東京都環境局


[二酸化炭素(CO2)]

地球温暖化の原因となるCO2の排出量は、東京においては自動車からの排出割合が全体の4分の1を占めています。これは全国的に見ても大きな割合となっています。東京では、自動車走行量の増加などにより、CO2排出量が増える傾向にあります。

図[2]-11 都内CO2排出源別割合
都内CO2排出源別割合
資料:平成9年度東京都環境保全局

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1)基本的な考え方
渋滞緩和と大気環境の改善という目的から対象区域を選定する必要があります。渋滞は自動車交通の集中密度からそのおおむねの状況を捉えることができ、大気汚染はNOx排出密度から同じような排出傾向を持つSPMも含めた地域の状況を把握することができます。
これらのことから、対象区域は自動車交通の集中密度が高い地域又は自動車からのNOx排出密度が高い地域とすることが適当と考えられます。
自動車交通の集中密度が高く、NOx排出密度が高い地域は、千代田区、中央区を中心として、主に環状七号線内側の地域となっているため、対象区域としては最大でも環状七号線内側の地域とすることが考えられます。
また、区域の設定に当たっては、都心部を中心に自動車交通の集中密度やNOx排出密度が高くなっているため、都心部を中心にして円形状に区域設定を行うことが合理的です。明確に区域を特定するという点では、環状方向の整備された道路、河川、鉄道を区域境界とする必要があります。

図[3]-1 区部自動車集中交通量密度
全車種・昼間12時間(7時~19時)
区部自動車集中交通量密度全車種・昼間12時間(7時~19時)
資料:平成6年度道路交通センサスから作成

図[3]-2 区部自動車NOx排出密度推計値(平成9年・平日・幹線道路分)
全車種・昼間12時間(7時~19時)
区部自動車NOx排出密度推計値(平成9年・平日・幹線道路分)全車種・昼間12時間(7時~19時)
資料:平成6年度道路交通センサス及びNOx排出係数から作成

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2) 対象区域の検討案

前記の基本的な考え方から、次の4区域を対象区域として検討しました。

ア 環状2号・隅田川区域
主に環状二号線(外堀通り)を中心とし、秋葉原から神田川、隅田川を利用し、新橋で外堀通りに接続する区域。
イ 山手線・隅田川区域
主にJR山手線を中心とし、秋葉原から神田川、隅田川を利用し、東京湾に出て、浜松町で再びJR山手線に接続する区域。
ウ 環状6号・隅田川区域
主に環状六号線(山手通り)を中心とし、北区堀船から隅田川を利用し、東京湾に出て、芝浦、目黒川を経て再び環状六号線に接続する区域。
エ 環状7号・荒川区域
主に環状七号線を中心とし、足立区鹿浜橋から荒川を利用し、砂町、豊洲を経て東京湾に出て、芝浦、品川を通り、平和島で再び環状七号線に接続する区域。

図[3]-3 ロードプライシング検討対象区域図
ロードプライシング検討対象区域図

表[3]-1 検討対象区域の状況

 環状2号・隅田川区域山手線・隅田川区域環状6号・隅田川区域環状7号・荒川区域
区域面積(区部面積比)16平方キロメートル(3%)72平方キロメートル(12%)118平方キロメートル(19%)233平方キロメートル(38%)
区域の所在千代田区、中央区、港区、新宿区環状2号・隅田川区域に加え、文京区、台東区、品川区、目黒区、渋谷区、豊島区、北区、荒川区山手線・隅田川区域に加え、中野区、板橋区環状6号・隅田川区域に加え、墨田区、江東区、大田区、世田谷区、杉並区、練馬区、足立区、江戸川区
区域内人口・平成7国勢調査夜間人口(区部人口比)
・平成7国勢調査昼間人口(区部人口比)

約7万人 (約1%)
約130万人
(約12%)

約77万人 (約10%)
約356万人
(約32%)

約147万人 (約18%)
約488万人
(約44%)

約312万人 (約39%)
約681万人
(約61%)

土地利用の状況(面積比) 住居系 商業系
工業系

31%
67%
2%

47%
43%
10%

46%
40%
14%

49%
30%
21%

区域内進入路・一般道(うち細街路)
・首都高速オフランプ
59路線(15路線)
18か所
93路線(18路線)
30か所
247路線(86路線)
37か所
322路線(137路線)
53か所
自動車保有台数(区部保有台数比)約7万台(約3%)約31万台(約12%)約51万台(約19%)約100万台(約38%)
区域の持つ特徴霞ヶ関、銀座など、区域の面積に比べ多様な都市機能を抱える。境界線上に新宿、渋谷、池袋、上野などの副都心が存在する。東京構想2000ではセンター・コア・エリアと位置づけられている。区部面積の約3分の1を占め、山手や下町などの住宅地が多く含まれる。

区域境界の所在する区の人口、土地利用、自動車保有台数は、面積に比例して按分。

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1)基本的な考え方

乗用車類は区部走行量の2分の1を占め、交通混雑の大きな原因となっており、また、貨物車類は区部において自動車からのNOx排出量の77%、SPMの72%を排出しており、大気汚染の大きな原因となっています。このことから、渋滞緩和と大気環境の改善を図るためには、全ての自動車を対象とする必要があります。
都が平成12年度に実施した、ロードプライシングによる「交通行動の転換に関するアンケート調査」によると、一般道の自家用乗用車利用者は課金額が500円の場合、図[3]-6のとおり自動車利用をやめるグループが34%、出発時刻の変更や迂回路利用などで対応するグループが16%あり、50%が転換意向を示しています。また、一般道の自家用貨物車利用者については課金額にもよりますが45%~55%が効率化や鉄道利用などの転換意向を持っており、営業用貨物車の事業主についても10%~20%が物流効率化の意向を示しています。この調査結果からも、全ての自動車に課金することにより自動車利用の抑制を促す効果が期待できます。
ただし、社会的な要請などから必要な自動車については、対象から除外することが望ましいと考えます。

図[3]-4 区部の車種別走行量
平日昼間12時間(7時~19時)
区部の車種別走行量平日昼間12時間(7時~19時)
資料:平成9年度道路交通センサスより作成

図[3]-5 区部NOx・SPM車種別排出量(平成9年度)
区部NOx・SPM車種別排出量(平成9年度)
資料:東京都環境保全局

図[3]-6 交通行動の転換に関するアンケート調査結果
-自家用乗用車・一般道-
(アンケート条件:コードン方式・課金額500円)
交通行動の転換に関するアンケート調査結果-自家用乗用車・一般道-(アンケート条件:コードン方式・課金額500円)

図[3]-7 交通行動の転換に関するアンケート調査結果
-自家用貨物車・一般道-
(アンケート条件:コードン方式・課金額小型500円・普通1000円)
交通行動の転換に関するアンケート調査結果-営業用小型貨物車・事業所-(アンケート条件:コードン方式・課金額500円)

図[3]-8 交通行動の転換に関するアンケート調査結果
-営業用小型貨物車・事業所-
(アンケート条件:コードン方式・課金額500円)交通行動の転換に関するアンケート調査結果-営業用小型貨物車・事業所-(アンケート条件:コードン方式・課金額500円)

図[3]-9 交通行動の転換に関するアンケート調査結果
-営業用普通貨物車・事業所-
(アンケート条件:コードン方式・課金額1000円)交通行動の転換に関するアンケート調査結果-営業用普通貨物車・事業所-(アンケート条件:コードン方式・課金額1000円)

2) 除外対象車

次の自動車については、課金の対象外とすることが考えられます。

ア 道路交通法で定める緊急用務に使用する自動車
消防用自動車、救急用自動車、警察用自動車、自衛隊用自動車、医療機関の応急運搬車などが該当します。
イ 公共交通機関である路線バス
路線バスは乗用車などからの代替交通手段と考えます。
ウ 障害を持つ者が運転する自動車
障害を持つ者の移動に必要な自動車のうち、下肢機能に障害を持つ者が自ら運転するものが考えられます。なお、この場合以外の障害を持つ者の移動に必要な自動車については、別途課金額の割引を検討する必要があります。
エ 自動二輪車
道路の占有面積が小さいため渋滞への影響は少なく、大気汚染への寄与度も他の自動車に比べ0.3%と極めて低い状況にあります。
オ 対象区域を通過する首都高速道路走行自動車

首都高速道路を走行して対象区域を通過する自動車に課金する場合、迂回交通による影響として一般道の混雑悪化、渋滞が予測されます。また、改善効果のシミュレーションによると、課金しない場合を大きく上回る効果があるのは環状7号・荒川区域のケースだけとなっています。これらのことから、対象区域を通過する首都高速道路走行自動車には課金せず、対象区域内に降りた時点で課金することが適当です。

なお、ロードプライシングを実施しているシンガポールにおける除外対象車種は、消防車、救急車、警察関係の緊急用務に使用する自動車となっています。

表[3]-2 首都高速道路通過車両のシミュレーション効果
首都高速道路通過車両のシミュレーション効果
(注)試算条件:2010年、平日午前7時~午後7時、小型車500円・大型車1000円、コードン課金
大型車とは、普通貨物車、バス、大型特殊(種)車。それ以外は小型車。

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1)課金額設定の考え方

ロードプライシングは他のTDM施策やディーゼル車対策と連携しながら渋滞緩和と大気環境の改善を目指すものであり、課金額については、ロードプライシングが分担する改善目標の範囲で設定する必要があります。
また、課金額の設定に当たっては、ロードプライシングが外部不経済である渋滞や大気汚染に着目して課金を行うことから、その原因の程度に応じたものにするとともに、社会的、経済的な妥当性や受容性も考慮する必要があります。

2)課金額の設定方法

外部費用の積み上げによる方法と目標からのアプローチによる方法の2つが考えられます。
ア 外部費用の積み上げによる方法
この方法は、渋滞などによって生じる時間損失や費用負担などの計測可能な外部費用を貨幣評価し、積み上げることにより、原因者が負担すべき金額を課金額として設定するものです。
計測可能な外部費用の項目としては、道路投資の評価に関する指針検討委員会(建設省)の「道路投資の評価に関する指針(案)」(平成10年6月)では6項目を、また、1998年のECMT(欧州交通担当大臣会議)では4項目をあげています。

表[3]-3 自動車交通に関する外部費用項目

 道路の投資評価に関する指針(案)ECMT
交通項目走行時間渋滞
走行費用交通事故
交通事故
環境項目大気汚染環境費用(大気汚染、交通騒音、気候変動)
騒音
地球温暖化
 インフラ

これらを参考にして区部における渋滞と大気汚染による外部費用を試算すると次表のようになります。なお、試算に当たっては、区部における自動車1台当たり1回(1トリップ)の平均的な走行距離を15キロメートルと想定しています。
また、大気汚染の外部費用については、東京の人口密度などを加味して積み上げています。

表[3]-4 都区部の大気汚染及び渋滞による外部費用試算結果

項目貨幣評価値(円/台km)外部費用(円/台トリップ)
渋滞18~36270~540
大気汚染(気候温暖化含む)ガソリン車1~17
ディーゼル車15~125
15~255
225~1,875

以上のように試算しましたが、試算結果には大きな開きが出ています。
渋滞による外部費用の積み上げについては、渋滞の捉え方により貨幣評価値に差が出ることと、車種別の全国平均の時間評価値はあるものの東京の自動車利用に対応した時間評価値がなく、東京の実状と乖離しているという問題があります。また、大気汚染による外部費用の積み上げについても、外部費用の研究が不十分な状況にあり、大気汚染の貨幣評価値に差が見られ、計測結果に幅が生じるといった問題があります。
したがって、この外部費用の積み上げによる方法を採用することは現時点では難しいと考えられます。
なお、車種別の外部費用に大きな差があることについては、課金額の設定にひとつの手掛かりとなると考えられます。

図[3]-10 目標からの課金額設定のフロー
目標からの課金額設定のフロー
イ 目標からのアプローチによる方法
この方法は、具体的目標を設定して、その達成に必要な課金額を設定するものです。その算定方法は、最初に、TDM施策による改善目標からロードプライシングが分担する目標の設定を行い、交通渋滞や大気汚染に対する原因の程度やロードプライシングによる課金を実施した場合の交通行動の転換率を考慮した上で、その分担する目標を達成するための初期課金額を算定します。次に、算定した初期課金額について、社会的、経済的な妥当性や受容性に配慮した修正を行い、この修正額をロードプライシングの課金額とするものです。また、実施後は、改善効果を確認しながら課金額を再修正し、引続き目標の達成を目指すことになります。
このように、目標からのアプローチによる方法は、施策目標を達成するための合理的な課金額を社会的、経済的な妥当性や受容性を加味しながら設定でき、試行的なプロセスを踏みながら行うという接近的な手法をとることとなるため、課金額設定方法として妥当と考えられます。

3)目標設定と課金額

TDM施策の中でロードプライシングが分担する目標の項目としては、混雑時平均旅行速度の向上のほか、NOx削減量やSPM削減量などがあります。そして、課金額算定のためには、このうち最も自動車交通量の抑制を必要とする目標を選定して、初期課金額を設定することが適当です。この課金額算定に必要な目標については、道路整備や駐車対策、ディーゼル車規制などの他の施策による取組を考慮すると、NOx削減量とすることが考えられます。すなわち、NOx削減目標値から課金額を算定することで、他の目標である混雑時平均旅行速度の向上や同じ排出ガスに含まれるSPMやCO2の削減を図ることができると考えられます。
具体的な目標数値については、TDM東京行動プランの2010年区部幹線道路におけるNOx削減2,000t/年という目標から設定することができます。TDM東京行動プランは平成12年2月に策定されており、その後、ディーゼル車の排出ガス対策が強化されたためNOx削減目標は2分の1程度に減少すると想定され、これより、現時点における2010年のロードプライシングの分担するNOx削減目標を400~600t/年程度とすることが考えられます。しかしながら、ロードプライシングは交通量抑制効果以外にパッケージ施策として課金収入を貨物車などの低公害化に活用することによる効果も合わせて考えることができるため、これを見込むと、ロードプライシングによるNOx削減目標はさらに小さくなり、300~400t/年程度となります。
この削減目標を踏まえ、いくつかの金額を仮定して、対象区域の検討案毎に課金額を試算すると、小型車400円~600円、大型車800円~1,200円とした場合、おおむね目標を達成すると算定されます。
環状2号・隅田川区域の場合は、目標に達しないため、分担する改善目標や課金額の調整が必要となります。
大型車とは、環境への負荷が他の車種に比べ著しく高い普通貨物車、バス、大型特殊(種)車であり、その他は小型車に分類しています。
また、試算に当たっては、前記の対象車種、「平日午前7時~午後7時に課金」「コードン課金(区域に入る毎に課金)」を条件としたほか、大型車の課金額については外部不経済への寄与度から見ると小型車の4倍程度となるため、社会的、経済的な妥当性や受容性を加味しました。
なお、環境への負荷が少ない低公害な自動車については、別途割引を検討する必要があります。

表[3]-5 課金額毎の各区域別NOx削減量(2010年)
課金額毎の各区域別NOx削減量(2010年)

図[3]-11 車種別のNOx排出量平均値(走行時)
車種別のNOx排出量平均値(走行時)
資料:東京都環境保全局

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課金時期としては、課金する月、曜日、時間がありますが、ロードプライシングの目的から、自動車交通量の多い時期、時間帯、又はNO2濃度の高い時期、時間帯に課金する必要があります。
区部一般道の18箇所に設置している都のトラフィックカウンターの実測によると、月別交通量は年間ほぼ一定しています。平日の交通量もほぼ一定で、前述のとおり、午前7時頃から午前9時頃にかけて都心部の交通量が増大し、その後、交通量は多い状態が続き、夕方以降に減少します。総じて、午前7時頃から午後7時頃までの間に交通量が多いということができます。また、平日と比べると、土曜日の交通量は多くなっていますが、休日の交通量は減少しています。

図[3]-12 日交通量の月変動(区部)
日交通量の月変動(区部)
資料:東京都環境保全局トラフィックカウンター測定データ(平成11年度)により作成

図[3]-13 日交通量の曜日変動(区部)
日交通量の曜日変動(区部)
資料:東京都環境保全局トラフィックカウンター測定データ(平成11年度)により作成

図[3]-14 区部の時間帯別走行量と旅行速度(平日)
区部の時間帯別走行量と旅行速度(平日)
資料:平成6年度道路交通センサスより作成

一方、NO2濃度は冬期に高くなり、夏期に低下する傾向がありますが、気象の影響があったといわれる平成11年度は別として、道路沿道は夏期でも濃度が高い状況にあります。休日と比べると、平日と土曜日のNO2濃度が高くなっています。
これらを総合的に勘案すると、課金時期は、原則として年間を通して平日の午前7時から午後7時までの12時間とする必要があります。土曜日については、自動車交通量が多いものの、車種構成は平日と異なっており、社会的な妥当性や受容性の観点から、課金を行わないことが適当と考えられます。
なお、午前7時から午前9時までの2時間に限って課金するピーク時間帯におけるプライシングについては、渋滞緩和の効果をある程度見込める可能性がありますが、大気環境の改善面では12時間課金と比べると限定されたものになると考えられるため、引続き検討する必要があります。また、同じピーク時間帯の課金額を他の時間帯の課金額よりも高く設定することも考えられますが、実施後の交通状況を見た上での検討が望まれます。

図[3]-15 NO2月平均値の年度別変化(自動車排出ガス測定局・区部)
NO2月平均値の年度別変化(自動車排出ガス測定局・区部)
資料:東京都環境局

図[3]-16 NO2濃度の曜日別変化(自動車排出ガス測定局・区部・平成11年度)
NO2濃度の曜日別変化(自動車排出ガス測定局・区部・平成11年度)
資料:東京都環境局

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課金方式には、一定の区域内に進入する自動車に課金するコードン方式や一定の区域内を走行する自動車に課金するエリア方式などがあります。
コードン方式はシンガポールやノルウェーのオスロなどで実施されており、区域境界線上に課金するためのチェックポイントを設ければ良いことから、実現性やコストの面で優れています。一定の区域内に進入する自動車が課金対象となるため、対象区域内の内側のみを運行する自動車は課金されません。
これに対し、エリア方式はロンドンにおいて実施の検討が進められているもので、対象区域が広いほど効果が期待できます。
課金の容易さではコードン方式が優れており、課金の公平性という観点からはエリア方式が優れていますが、コードン方式でおおむね改善目標を達成することが可能と試算されること、また、エリア方式はコードン方式と比べるとより高度で複雑な課金システムが必要となり、相対的に事業費が大きくなると想定されるため、当面はコードン方式によることが適当と考えられます。
課金方式をコードン課金とする場合、入域毎に課金する方法と入域した日に1回課金する方法がありますが、実施効果の観点から原則として入域毎に課金することが適当です。なお、課金システムによっては入域毎に課金できない場合があります。
この他、課金方式としては自動車の走行距離に応じて課金する距離課金方式がありますが、課金技術面で未だ実用化に至っていません。

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1)基本的な考え方

課金システムは、通行する個々の自動車を高い精度で認識する機能と、被課金者を特定した上で課金を徴収する機能から構成する必要があります。すでに実用化されている課金システムや実用化を期待できる検討中のシステムをもとに、対象区域の特性に応じた導入可能なシステムを選定する必要があります。

2)通行認識

通行する自動車を個々に認識する通行認識の機能については、入域証方式、カメラ方式、DSRC(電波・光)方式、電子ナンバープレート方式、GPS方式、PHS方式があります。それぞれの方式の内容は次表のとおりです。

表[3]-6 通行認識の各方式

方式内容等
入域証・自動車に掲示された入域証を監視員が目視し、確認するもので、シンガポールのロードプライシングにおいて1975~1998年の間実施されています。
・目視確認のため、監視員の数に応じて認識精度が変わってきます。また、入域証の発行、確認手続上入域毎の課金は困難なため、1日単位などになります。
カメラ・ナンバープレートをデジタルカメラで撮影して自動車使用(保有)者を特定するもので、2003年からの実施を検討しているロンドンのロードプライシングにおける方式です。
・ナンバープレートの汚れ等によって認識精度が多少劣ります。
DSRC※
(電波)
・車載器と路上の通信機器間で電波により通信するものです。ロードプライシングの課金システムとしてシンガポールにおいては1998年から、オスロ(ノルウェー)では電子タグ方式によって1991年から実施されています。また、日本においても2001年3月から有料道路の料金収受に利用されています。
・車載器の搭載が必須となりますが、自動車の固有情報が得られるため、認識精度が高くなるとともに、課金の自動収受も可能な方式です。
DSRC※
(光)
・車載器と路上の通信機器間で光により通信するものです。マレーシアにおいて1999年から有料道路の料金収受に利用されています。
・車載器の搭載が必須となりますが、自動車の固有情報が得られるため、認識精度が高くなるとともに、課金の自動収受も可能な方式です。
電子ナンバープレート・ナンバープレートに自動車の固有情報を記憶させたICチップなどを搭載し、路上の通信機器間で電波により通信するものです。日本では2000年から路車間通信の試験が実施されています。
・高い認識精度が得られます。
GPS・カーナビゲーションなど人工衛星を利用して走行状況を把握し、車載器と路上の通信機器間で通信するものです。香港で1998年に実験が行われています。
・車載器の搭載が必須となりますが、自動車の固有情報が得られるとともに、高い認識精度が得られます。
PHS・端末機が所在する位置をおおよそ把握できる機能を利用するもので、検討段階にあります。

(注1)DSRC:狭域通信。限られた場所を対象にした通信手段や技術。
(注2)方式名は本検討用に呼称したものです。

これらの各方式のうち、早期の導入が可能なシステムという観点からは、当面、車載器搭載などの条件を必要としない方式を選定する必要があると考えられます。
車載器の搭載が不要なシステムは入域証方式、カメラ方式、電子ナンバープレート方式ですが、電子ナンバープレート方式は実用化が期待されるものの、法制度の整備が必要になります。このため、現時点での検討対象は、入域証方式とカメラ方式になると考えられます。
なお、カメラ方式の場合、通行認識の精度を高めるためには、荷台の下などに隠れることの少ない、自動車の前面にあるナンバープレートを撮影することが必要と考えます。
また、このいずれの場合も被課金者の特定には自動車登録証データベースとの照合が必要となるため、データベースを必要に応じて随時入手できる仕組みの検討が必要です。
今後、通信技術の進展は目覚しいものがあると予想されます。また、車載器の普及も進むものと考えられます。通行認識はそれらの動向を踏まえて、将来的には、料金の自動収受化などIT社会にふさわしいものにしていくことが必要です。

3)課金徴収

課金の徴収については、徴収手続によって次の3つの方式が考えられますが、各方式ともそれぞれの特徴があるため、都民や事業者の理解を得やすい方式となるよう、各方式の組み合わせなども検討する必要があります。
ただし、通行認識を入域証方式とする場合は、事前に入域証を購入し、自動車に掲示するという方法のため事前納入方式に限定されることになります。

ア 事前納入方式
入域する前に課金を納入する方法です。入域頻度の高い者には手間暇がかかり負担が多くなりますが、事前の登録なしに随時入域できる特徴があります。

イ 事前登録方式
入域する前に支払手段(銀行口座引き落とし等)を登録する方法で、入域頻度の高い者は一度登録すれば負担が軽くなる特徴があります。
また、登録した自動車からの徴収を確実に行うことができます。

ウ 事後徴収方式
事前納入、事前登録を行わず、個々の自動車の通行認識から被課金者を特定し、事後徴収する方式です。入域する者には事前の手続が生じないため、支払いの動機付けが不十分となります。

図[3]-17 課金処理フロー例
課金処理フロー例

図[3]-18 カメラ方式のイメージ
カメラ方式のイメージ

4)事業費

入域証方式の事業費は、導入費として路上の案内板、運営費としては監視員の人件費、入域証の販売手数料などが必要になります。
また、カメラ方式の事業費としては、カメラや路上の通信機器及び課金センターの設備費といった導入費のほか、事前納入や登録を受け付ける人件費、設備の維持管理費等の運営費が必要になります。
対象区域の4案毎に一定の条件の下に事業費を試算した結果、入域証方式は、カメラ方式に比較して、導入費がどの区域においても低くなりますが、運営費は高くなる傾向があります。
また、入域証方式の場合、数多くの監視員が必要になるため、狭い区域が望ましく、環状2号・隅田川区域の場合に限った適用が考えられます。

表[3]-7 カメラ方式・入域証方式の事業費
カメラ方式・入域証方式の事業費
(注)入域証方式は事前納入を行う方式。カメラ方式は、課金徴収として事前納入、事前登録、事後徴収の3方式について算定。

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最初の実施段階におけるロードプライシングの実施内容としては、次の4案が考えられます。

ア 環状2号・隅田川区域案

対象車種 除外対象車を除くすべての自動車 除外対象車は、道路交通法で定める緊急用務に使用する自動車、公共交通機関である路線バス、下肢機能に障害を持つ者が自ら運転する自動車、自動二輪車、対象区域を通過する首都高速道路走行自動車
課金額 小型車 400~600円
大型車 800~1,200円
低公害な自動車や障害を持つ者の移動に必要な自動車(除外対象車を除く。)は割引を検討する。
(注)小型車:大型車以外の自動車
大型車:普通貨物車、バス、大型特殊(種)車
課金時期 年間を通して平日の午前7時~午後7時
課金方式 コードン方式(カメラ方式の場合は入域毎に課金、入域証方式の場合は1日に1回課金)
課金システム カメラ方式又は入域証方式

イ 山手線・隅田川区域案

対象車種、課金額、課金時期、課金方式は環状2号・隅田川区域案と同じ。
課金システム カメラ方式

ウ 環状6号・隅田川区域案

対象車種、課金額、課金時期、課金方式、課金システムいずれも山手線・隅田川区域案と同じ。

エ 環状7号・荒川区域案

対象車種、課金額、課金時期、課金方式、課金システムいずれも山手線・隅田川区域案と同じ。
なお、環状2号・隅田川区域については、パーク&ライドなど他のTDM施策推進の強化を図ることを前提とします。

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ロードプライシングの実施により自動車利用者は自動車の利用を取り止めたり、経路や時間を変更して課金を回避する行動をとることが考えられます。このため、改善効果の算定に当たっては、次図のような手順により試算しました。
シミュレーションは迂回路となる環状方向の道路整備が2010年に比べると不十分な2003~2004年頃と、TDM東京行動プランにおいて改善目標が示されている2010年を試算年次としていますが、いずれも都が平成12年度に実施した「交通行動の転換に関するアンケート調査」の結果を用いたものとなっています。

図[3]-19 改善効果の算定フロー
改善効果の算定フロー

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1)シミュレーション条件
試算年次:2003~2004年頃
対象区域:4案(環状2号・隅田川区域、山手線・隅田川区域、環状6号・隅田川区域、環状7号・荒川区域)
課金時間:平日午前7時~午後7時
課金額:小型車500円、大型車1,000円
課金方式:コードン課金
課金システム:カメラ方式
首都高速道路利用車両:対象区域に降りた時点で課金
自動車OD表:平成6年道路交通センサス(1994年)においてまとめられている2020年の将来推計値を用い、1994年から 試算年次への伸び率を算出して適用。
道路ネットワーク:現状の道路網に首都高速板橋足立線、首都高速晴海線、臨港道路を追加。

2)シミュレーション結果
試算結果によると、区部幹線道路全体における渋滞緩和及び環境改善効果は、対象区域が広いほど効果が大きくなっています。
また、ロードプライシングを実施しない場合に比べて、走行量削減率と平均旅行速度向上はいずれも対象区域が小さくなるほど、その区域内では効果が大きくなります。
得られた改善効果を2010年時点でのロードプライシングによる目標(NOx削減量:300~400t/年程度)と比較すると、環状2号・隅田川区域案以外の3案については、いずれの場合も2010年時点での目標を達成することが推定されます。
事業費に対して得られる効果は、線路で区切られた進入路が比較的に少ない山手線・隅田川区域案が最も高くなりますが、他の3区域案はほぼ同じとなります。

表[3]-8 シミュレーション結果(2003~2004年頃)シミュレーション結果(2003~2004年頃)

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1)シミュレーション条件
試算年次:2010年
対象区域:4案(環状2号・隅田川区域、山手線・隅田川区域、環状6号・隅田川区域、環状7号・荒川区域)
課金時間:平日午前7時~午後7時
課金額:小型車500円、大型車1,000円
課金方式:コードン課金
課金システム:カメラ方式 首都高速道路利用車両:対象区域に降りた時点で課金
自動車OD表:平成6年道路交通センサス(1994年)においてまとめられている2020年の将来推計値を用い、1994年から試算年次への伸び率を算出して適用。
道路ネットワーク:2003~2004年頃の道路網に環状八号線(練馬区他)、放射16号線(江東区等)、首都高速中央環状新宿線、高速川崎縦貫線、東京外かく環状道路(三郷-市川)、晴海線(一般道)を追加。

2)シミュレーション結果
試算結果によると、渋滞緩和と環境改善効果についての特徴は、2003~2004年頃の試算結果の特徴とほぼ同様です。区部幹線道路の平均旅行速度については、0.9~2.0km/h向上します。ロードプライシングによるNOx削減目標の達成についても環状2号・隅田川区域案以外の3案で達成することが推定できます。
また、2003~2004年頃の試算結果と比べると、区部幹線道路の平均旅行速度は道路網の整備が進むため向上しますが、NOx、SPMについては、自動車の排出ガス対策の強化により削減量が小さくなります。

表[3]-9 シミュレーション結果(2010年)
シミュレーション結果(2010年)

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ロードプライシングを実施した場合における4案それぞれ毎の一般道及び首都高速道路の交通への影響は、前記の2003~2004年頃におけるシミュレーションの結果から次のようになることが予想されます。

[環状2号・隅田川区域案]
一般道については、他の3案に比較して迂回交通が特定路線に集中する傾向があります。区域の西側では環状二号線、北側では蔵前橋通りといった東西方向道路、東側では清澄通りといった南北方向道路、南側ではレインボーブリッジで迂回交通による交通量が増加します。
首都高速道路については、1号上野線、5号池袋線、9号深川線、晴海線の入域前後の区間において、一般道を避け、区域を首都高速道路で通過する交通による交通量の増加があります。

[山手線・隅田川区域案]
一般道では、区域の東側及び南側の区域境界線から環状七号線までの間の道路で迂回交通の影響が発生します。区域の東側では晴海通り及び清澄通り等の南北方向道路、南側では環状六号線で交通量が増えます。また、区域の北側では足立区の一部道路で交通量の増加があります。
首都高速道路については、1号上野線、2号目黒線、9号深川線の入域前後の区間において、一般道での課金を避け、区域を首都高速道路で通過する交通による交通量の増加があります。

[環状6号・隅田川区域案]
一般道では、区域の北側の隅田川沿いの地域で、墨堤通り等の交通量が増えます。また、区域の東側及び南側では、山手線・隅田川区域と同じ傾向があり、晴海通り及び清澄通り等の南北方向道路と環状六号線南部で交通量が増加します。
首都高速道路については、2号目黒線、9号深川線の入域前後の区間において交通量が増えます。

[環状7号・荒川区域案]
一般道については、区域の北側で荒川鹿浜橋周辺道路、東側と南側では明治通り、環状七号線など江東・品川区の一部道路で交通量が増加します。また、国道15号(港区、品川区)など、区域境界線の内側道路においても、域内交通による交通量の増加があります。
首都高速道路については、1号羽田線、9号深川線の入域前後の区間で交通量が増えます。

以上のとおり、各区域案とも程度の差はありますが、道路交通への影響があり、迂回路となる幹線道路の沿道環境が悪化する可能性があります。また、迂回路となる幹線道路の交通量が増加し、混雑するような場合には、生活道路に迂回交通が入り込むことも予測され、排気ガスや騒音などにより生活環境に影響が生じたり、交通事故が増加する可能性があります。
このため、迂回路となる環状方向の道路整備をはじめ、交通の円滑化対策を広域的な視点からの取組も含めて推進するとともに、沿道環境対策を適切に実施する必要があります。また、生活道路に迂回交通が入り込まないような対策が適切に講じられる必要があります。

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境界線に接する内側街区で、道路が一方通行であったり、中央分離帯がある場合は、対象区域内の目的地に行く交通であっても出発地である内側街区に戻るアクセスの必要性から、一旦、境界線を越えなければならず、過重な課金負担となることが予測されます。境界線に接する内側街区への影響を最小限に止められるように対象区域を設定するなど、過重な負担にならないような対策を検討する必要があります。
また、課金開始直前の駆け込み、課金終了待ちによる滞留などの課金回避行動が予想されます。こうした課金回避行動により交通の安全性や円滑性が低下するおそれがあることから、これらの行動を抑制するための方策も検討する必要があります。

さらに、境界線近傍道路では、境界線を越えることを避けるための路上駐車も懸念されます。このため、駐車場整備や駐車場情報の提供など、違法駐車防止に向けた取組を推進する必要があります。

図[3]-20 境界線近傍街区での課金例
境界線近傍街区での課金例

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定量的な予測は困難ですが、幹線道路沿いの地域では、課金時間を避ける自動車の交通量が早朝、夜間に増えることが予想されます。この課金時間外の運行により、騒音、振動による生活環境悪化の可能性があるため、早朝、夜間の交通量の状況に応じた対策が必要になると考えられます。

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ロードプライシング実施後の自動車からの転換により、鉄道利用や路線バス利用が増えることが予想されます。例えば、2010年に環状7号・荒川区域で小型車500円、大型車1,000円のコードン課金を行った場合、鉄道転換者が9,000人と推定され、現在でも高い混雑率186%が187%と1%上昇し、ピーク時の1車両当たり乗車人員255人が1.3人増加すると試算されます。
公共交通の路線によっては車内がさらに混雑する可能性があるため、オフピーク通勤や輸送力増強など車内混雑緩和のための方策を検討する必要があります。また、公共交通以外の自転車などの代替交通手段についても利用促進のための取組を検討する必要があります。

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地域の事業者、住民等への影響については、個々のケースにより影響の度合いが異なりますが、全体としては大きな不利益を受けることはないと想定されます。
個々のケースにおける影響について、一定の条件のもとに便益、損失・費用負担の関係を見ると、おおむね次のようになると考えられます。

ア 鉄道事業者・バス事業者
利用者数の増加が見込まれ、運賃収入が増加します。バス事業者は、走行速度の向上による走行便益(走行費用の軽減)も期待できます。

イ 運送事業者
1日に何回も対象区域に進入するような場合には課金による負担が大きくなりますが、走行速度の向上による時間便益や走行便益を受けるとともに、自家用貨物車からの転換による業務量の増加も期待できるため、課金による負担を便益が上回る可能性があります。また、課金負担を他に転嫁できれば、さらに便益が大きくなります。

ウ タクシー事業者
走行速度の向上による走行便益がありますが、タクシー利用者が課金を実質的に負担する場合は、対象区域の境界線を通過する利用者は減る可能性があります。その一方、対象区域内に出発地と到着地をもつタクシー利用の利便性が向上するため、その利用者が増える可能性があります。

エ 自家用乗用車・自家用貨物車の利用者
課金による負担は生じますが、走行速度が向上し、走行時間が短縮できるため、時間便益と走行便益が生じます。1日に何回も対象区域に進入するような利用の場合は課金による負担が大きくなります。

オ タクシー利用者
対象区域の境界線通過時にタクシー利用者が課金を実質的に負担する場合でも、タクシーの走行速度の向上により目的地に早く着けるという時間便益が発生します。ただし、1利用当たりの乗車距離が短い場合は、時間便益を上回る課金負担になると考えられます。

カ 代替交通手段への転換者
自動車利用から鉄道、バス等の代替交通手段に転換する場合は、自動車利用時の走行費用などがなくなる一方で、代替交通手段の利用費用が新たな負担となります。ケースにより影響の程度が異なってきますが、自動車利用の利便性や快適性も考慮すると負担が便益をやや上回る可能性があります。

キ 対象区域内外の住民・事業者
NOxやSPMなどの排出量が減少し、大気環境が改善される便益が生じます。また、土地価格の変化の可能性については、土地評価方法から見ると影響は少ないと考えられます。

表[3]-10 ロードプライシングによる主要な便益、損失・費用負担の例示ロードプライシングによる主要な便益、損失・費用負担の例示

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課金システムの通行認識をカメラ方式により行う場合、個々の自動車のナンバーが把握されることから、自動車の運転者がプライバシーを侵害される不安を持つことが懸念されます。撮影範囲については課金手続に必要なナンバープレートを中心とした限られた範囲にするとともに、撮影画像の適正管理を徹底する必要があります。このことを都民、事業者等に広く周知し、理解を得ることが重要と考えられます。

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物流事業者が課金額を荷主や消費者に転嫁した場合、消費者物価が上昇する可能性がありますが、資料集にもあるとおり試算すると東京の消費者物価上昇率は0.04%程度となり、大きな影響は生じないと考えられます。

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法的根拠としては次の3つが考えられますが、今後、関係者との調整を進める必要があります。

都民の健康の確保及び福祉を増進する立場から、地方自治法第14条第1項及び第2項に基づき新条例を制定し、ロードプライシングの課金を原因者負担金又は課徴金として徴収するものです。課金対象行為は自動車走行による自動車排出ガスの排出行為とすることが考えられます。
この場合、道路法、道路交通法、大気汚染防止法、地方自治法といった関係法令に違反しないことが要件となります。
道路法の理念によれば、道路は、人の移動や物資の運搬等に必要不可欠であり、高度の公共性を有するものであることから、いわゆる「道路無料公開の原則」があるとされています。この点に関して、都のロードプライシングは、自動車交通による渋滞や大気汚染の外部不経済に着目して課金を行うものですが、前述のとおり道路の使用そのものを課金対象としているものではありません。
また、道路交通法は「道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図り、及び道路交通に起因する障害の防止に資すること」を目的としており、都のロードプライシングの目的と重なる部分がありますが、ロードプライシングは課金という経済的ディスインセンティブにより発生交通量を抑制する手法であり、道路交通法に規定されている手法とは異なるものといえます。
大気汚染防止法については「大気の汚染に関し、国民の健康を保護するとともに生活環境を保全」すること等を目的としており、都のロードプライシングの目的と重なる部分がありますが、その取組は道路交通法の措置を要請することとされています。道路法、道路交通法、大気汚染防止法との関係については、明確な判断を示す立場にはありませんが、課金対象行為や手法の違いから条例による課金について検討する必要があると考えられます。ただし、高額な課金額の設定により、事実上自動車の走行が制限されるような場合は、道路の自由使用との関係で問題になると考えられます。
次に、地方自治法との関係については、ロードプライシングの課金収入が地方公共団体の収入規定である分担金、使用料、手数料などのいずれにも該当しないという問題があります。ロードプライシングが同法に基づく自治事務に該当する限りにおいては条例により収入する余地があると考えられますが、法整備が望まれます。

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現行都税条例の一部を改正し、課金を地方税法に基づく法定外普通税又は法定外目的税として徴収するものです。
法定外税は、地方税法に定められた税目以外に、地方公共団体が課税自主権により課すことができる地方税であり、財源確保という本来的な性格に加え、地方公共団体の政策課題の推進を税制面から支援する性格をもっています。
渋滞緩和と大気環境の改善を図るための一般財源や必要経費に充てるという観点から制度化が考えられますが、総務大臣の同意が必要となります。

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ロードプライシングに関係する法の整備により、それを根拠として地方公共団体が課金事務を行うものです。国においてもロードプライシングの検討が進められており、今後の動向に注目する必要があります。

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課金収入については、ロードプライシングの実施に必要な事業費を上回ると見込まれます。
必要な事業費を上回る課金収入の使途については、先ず、ロードプライシングの実施に伴う迂回交通などの影響への対策に充てる必要があります。また、ロードプライシングの課金額の算定に必要な目標設定に当たっては、課金収入を貨物車などの低公害化に活用することを前提にしており、これにも適切に対処する必要があります。さらに、ロードプライシングはパーク&ライドなど他のTDM施策と組み合わせて実施することが渋滞と大気環境の改善効果の面から重要と考えられます。
こうしたことから、必要な事業費を上回る課金収入の使途としては、ロードプライシング実施に伴う迂回交通や公共交通などの影響への対策、貨物車などの低公害化、パーク&ライドなどの他のTDM施策に活用することが望まれます。
一方、ロードプライシング実施の目的から、渋滞対策と環境対策に幅広く課金収入を活用することも考えられます。

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ロードプライシングは、一度決定した内容に従って実施し続けるのではなく、改善効果や実施による影響を確認しながら、時々の必要性に応じて柔軟に対処できるようなものとする必要があります。例えば、課金額については固定化するのではなく、交通渋滞や大気環境の状況に応じて適宜見直すことのできるようなフレキシビリティを持たせる必要があります。

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課金実施後、被課金者から対象区域を通行していないことなどを理由としたクレームが数多く寄せられることが予想されます。被課金者の主張が正しいかどうか、事実関係を確認し、調整を行う機能を確保する必要があります。

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迂回交通による影響への対処については、事前対策を重視する必要があります。迂回路となる環状方向の道路の整備状況を踏まえて、できるだけ詳細な調査を事前に行い、その調査結果を基に、交差点の改良、駐車マネジメント、適切な交通安全施設の整備などの必要な対策を先行的に実施し、ロードプライシングの円滑な推進を図る必要があります。
事後対策も含め、交通管理者や道路管理者、その他関係者との連携を図ることが重要です。

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昨年11月、都税制調査会は、首都高速道路を走行する大型ディーゼル車に法定外目的税を課し、環境対策に充てるとする答申を行いました。現在、都において検討が進められていますが、本検討のロードプライシングとの関係など、必要な調整を図る必要があります。

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自動車利用者への課金を通して渋滞緩和と大気環境の改善を目指す都のロードプライシングを円滑に実施するためには、都民、都内で活動する事業者等の理解を得ることが極めて重要です。今後、都の実施案を策定するに当たっては、事前に検討段階の実施案の説明や情報提供を様々な機会を捉えてきめ細かく行う必要があります。そして、可能な限り都民、都内で活動する事業者等の意見を聞き、実施案に反映させていくことが必要です。

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