サントリーホールディングス株式会社の取組

 

サントリーホールディングス株式会社は、森林保全を通して豊かで良質な地下水を育む「天然水の森」活動に取り組んでいます。
全国23箇所、約12,000ヘクタールの「天然水の森」のうち、檜原村にある「サントリー天然水の森 奥多摩」では森林の整備活動を通じて、豊かな地下水を育み、生物多様性を高め、また地元自治体と連携するなど様々な価値を生み出しています。
今回は「天然水の森」を担当している専任シニアスペシャリストの三枝さんに、「天然水の森」の活動についてお話しを伺いました。

■「天然水の森」活動について
――当初はどのような経緯で「天然水の森」の活動を始めることになったのでしょうか。

 清涼飲料やお酒を製造販売しているサントリーは、豊かな水の恵みを頂いています。
 水、特に豊かで清らかな地下水が無ければ企業活動は存続できません。
 そこで、全国の工場の水源涵養エリアで地下水を育む力の大きい森を目指して森林整備をして行こうと始めたのが「天然水の森」です。
最初の「天然水の森」は2003年に熊本県に設定した「天然水の森 阿蘇」で、同年に稼働を始めた「サントリー九州熊本工場」の水源涵養エリアである阿蘇外輪山の森林を保全しようと考えました。
当時は現在のように様々な有識者などとの連携はなく、試行錯誤を繰り返していたためとても大変でした。

――そうだったんですね。現在は、「天然水の森」での活動を進めていくにあたって調査(Research)から始まるR-PDCAサイクルを回しているとお聞きしましたが、具体的にはどのようなプロセスを経ているのでしょうか。その際に注意していることはありますか。

まず、対象となる森林を徹底的に調査(Research)します。
専門の調査会社に委託する事もありますし、大学との共同研究を行う事もあります。
地下水に関しては、社内に専門の研究機関である「水科学研究所」があるため、研究所と連携しながら調査・研究などを進めています。
そうした調査で得られた情報から、森ごとの課題や目指すべき姿を各分野の専門家の意見も伺いながら様々な視点で検討し、それぞれの森の課題やその解決方法、目指すべき姿を「ビジョン」としてまとめます。(Plan)
活動を進めるに当たっては、森林所有者の意向や行政が定める地域森林計画との整合にも留意しており、必ず協議の場を設けています。
整備作業については基本的に地元の事業体に委託しますが、必要に応じて豊富な知識や高いスキルを持った他のエリアの事業体にアドバイスを頂く事もあります。(Do)
整備作業を行った箇所については、数年に亘ってモニタリングを行い(Check)、次のステップの活動にフィードバックしています。(Action)
「天然水の森 奥多摩」では「1.森林の水源涵養力の保全」、「2.生物多様性の向上」、「3.地域に根差した森林整備の取組の推進」の3点を目標して掲げていて、R-PDCAサイクルを回しながら整備を進めています。

写真提供:中日本航空株式会社
▲レーザー航測により超高精度な地形情報を得ている

▲地下水シミュレーションモデル「ゲットフローズ」により地下水の見える化を進めている

 

――「天然水の森 奥多摩」では、どのような「課題」が見えてきたのでしょうか。また、そのために取り組んでいることがあれば教えてください。

「天然水の森 奥多摩」は2か所に分かれていますが、そのうちの標高が高いところにあるエリアでは急峻な地形のため作業道を作る事が出来ず、針葉樹人工林で間伐作業を行っても木を運び出すことが出来ません。
このような場所では、少しずつ針葉樹人工林の間伐を繰り返して、針葉樹林に広葉樹が混じる「針広混交林」に誘導しています。
そうする事で地下水を育む力と生物多様性が高い森林を目指したいのですが、近年増えてきたシカがせっかく生えてきた広葉樹の新芽を食べてしまう被害が増えて来ています。
そこで間伐を行ったエリアはシカから守るために植生保護柵を設置するなどの対策を進めています。

また標高の低い方のエリアでは、針葉樹人工林が皆伐(全て伐ってしまうこと)された土地を豊かな広葉樹林にしようと、東京農業大学さんに監修して頂いて「森の再生」に取り組んでいます。

■「天然水の森」での活動がもたらす地域との連携
――「天然水の森」で行う様々な活動を通して森林はどのように変わってきたのでしょうか。また地元の自治体にとっても良い変化があったのでしょうか。

「天然水の森 奥多摩」の事例ではありませんが、同じ檜原村内で昨年2月に活動を開始した「天然水の森 とうきょう檜原」では、自治体や地元住民の皆様と連携した活動を進めています。
檜原村は急峻な地形が多く、集落がある谷エリアでは日照時間が少ないという悩みがあります。
この悩みを解決する為に、檜原村では主に集落近隣の手入れが遅れた人工林を皆伐して日照を確保する活動をされていました。
そうして伐採した土地には地元住民の皆様の要望で、それほど樹高が高くならずに紅葉したり花が咲いたりする木を植えて、美しい森を育てていらっしゃいます。
「天然水の森 とうきょう檜原」でもこの考え方に基づき、皆伐された土地に森を再生する為に植樹する木は、住民の皆様にご相談して樹種を選んでいます。
植樹作業は、府中市と稲城市にあるサントリーの工場スタッフや、首都圏在住のサントリーグループ社員約90名が「森林整備体験研修」として行いました。
この研修ではただ単に木を植えるだけでなく、大切な地下水を育んでいる檜原村の事をもっと知ってもらおうと、研修の後に「払沢(ほっさわ)の滝」にも案内しました。
また、お昼に用意したお弁当は、地元のお店にご協力いただきながら、檜原村産の杉でできたお弁当箱に、檜原村産の食材で作ったおかずを詰めたんですよ。
これからも地元の皆様方と連携を図りながら、豊かな地下水を育み、生物多様性が豊かな森づくりを目指していきたいです。

――「天然水の森」の活動は地元の事業体や団体などと連携して活動を拡大されておられますが、連携する際や地元に活動を理解してもらうために行った工夫などはありますか。

「天然水の森 とうきょう檜原」では、檜原村と共に、地元の木材関連事業体の組合である「檜原村木材産業協同組合」と協定を結び、連携しながら活動をしています。
森林整備作業は同組合の組合員である林業事業体にお願いしていますし、「天然水の森」の整備作業に伴って伐り出した「育林材」を組合員である木材加工業者にお願いしてノベルティグッズにする計画もあります。
また協定地の地権者様とのコミュニケーションや役場との折衝についても同組合に関わって頂く事で、活動がスムーズに進んでいると思います。
地元住民の皆様の中には、馴染みのない企業が近隣で活動を進める事に不安をお感じになられる方がいらっしゃるかも知れません。
そういったご不安を解消するためにも、地元の事業体や団体と一緒に活動を進める事は大切ではないかと感じています。


■今後に向けた活動とNbS実践のヒント
――今後、都内の「天然水の森」ではどのような活動を行うことを考えていますか。

まず森林整備作業としては、手入れの遅れた針葉樹人工林の間伐や植生保護柵の設置、植栽箇所の下草刈り、森林整備用作業道の開設などを計画しています。
森林整備用作業道を作る事で、伐採した木を運び出して「多摩産材」として有効に活用できますし、森の大切さをアピールできると考えています。
次に首都圏在住のサントリーグループ社員を対象として、植栽作業を主とした「森林整備体験研修」を「天然水の森 とうきょう檜原」で春と秋に企画しています。
また、豊かな地下水と生態系を育む森の大切さを一般の方にもっと知って頂くように、広報活動も充実させていきたいと考えています。

――ますます取組が広がっていきそうで今後が非常に楽しみです。貴社のようなNbSの活動がより普及していくと良いですが、取組のヒントなどお考えがありましたら教えてください。

清涼飲料やお酒を製造するサントリーは、水がなければ企業活動を継続できません。
だから豊かな地下水を育んでくれる森を守る、という明確な「ストーリー」があります。
企業や団体に限りませんが、活動を行うにあたっては「ストーリー」を持って取り組むことが大事だと思います。
そうでなければ活動を長く続けていくことは難しいかもしれません。
また、どんなことでも、まずは自分で勉強してみるのがいいのではないかと思います。
なんとなく活動している状態よりも、活動をより深く理解した方が、どうせやるならいいんじゃないかな、と個人的には思っています。
関係がありそうな有識者の講演を聞いてみようとか、関係しそうな本を読んでみようとかでいいと思います。
小さなコトですが、まずはその辺りから始めていけばいいんじゃないでしょうか。

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